その手に触れたくて
「ありがとう…」
そう言うと相沢さんはうっすら微笑んで首を振った。
「あの、この事は――…」
「うん、分かってる。誰にも言わない」
あたしの言おうとした言葉を遮って、言ってきた相沢の言葉に小さく安堵のため息が口から零れた。
「…美月?」
不意に背後から聞こえた声に身体が反応し、その聞き慣れた声にビクンと震えたのが自分にでも分かった。
その震えたあたしの身体に気付いた相沢さんは俯いていた顔を上げ、あたしの後ろに視線を送った。
送ってすぐ相沢さんの目が泳いだのが分かった。
どうしよう…
どうしよう…
隼人に何て言えば…。
「何してんだ、お前ら…。つーか何回も電話してんだから出ろよ」
苛立った様にも呆れた様にも聞こえるその声とともに隼人の足音が近づいて来るのが分かる。
挙動不審を悟られたくないあたしは何もなかった様に平然を保ち顔を振り向けた。
「ご、ごめん。…隼人」
あたしは地面に置いていた2つの鞄を手に取る。
両手をポケットに突っ込んでいた隼人は、ポケットから手を出しあたしから2つの鞄を手に取った。