その手に触れたくて

帰った途端、すぐに洗面所に向かった。

手に貼りつけてあるガーゼを乱暴に取り、目に飛び込んできたその痛々しい傷痕に水を浴びせた。


痛い。
痛い。

手首がジンジンとして焼けている感じだ。


ふと目線を上に上げると、目の前の鏡に映る自分が哀れに思う。

目尻から一粒の涙が光って頬を滑り落ちた跡がある。きっと無意識の内に泣いてたんだろう。


こんな自分が情けない。

どうする事もできない自分が悔しい。


誰にも言えなくて、夏美にも…、そして当たり前に隼人にも言える訳がない。

念を押すように相沢さんには“言わないで!!”って言ったけど、もし誰かに言ってたらどうしようって言う不安が頭の中を駆け巡る。


あたしは隼人と付き合っちゃダメなの?

隼人はまだ先輩と別れてないの?


色んな想像が頭の中を支配する中、あたしは唇を噛み締める事しか出来なかった。


暫くぼんやりと手首を見つめているとガチャ…と音をたてて扉が閉まった音に身体が一瞬にして飛び上がった。


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