その手に触れたくて

誰かが帰ってきた事にあたしは急いで水を止め、タオルを取り出して手に付いている水を拭き取る。

たかが手を拭いているだけなのに、何か悪い事をしたかのように焦ってソワソワする。


妙に落ち着きがない自分が怪しく思う。

急いで拭き終わったあたしはタオルを洗濯機に放り込み、脱衣場の扉を開けた時――…


「…うおっ!!」


そう言葉を吐き出したお兄ちゃんの声に余計に驚いた。

ビクンとしたけど声は出ていない。だけどソワソワしているのは自分にでも分かる。

何故か無意識に右手は左手首を隠していて――…


「どした?」


呆然と立ち尽くしているあたしにお兄ちゃんは不思議そうに見下ろした。


「…え?」


恐る恐る見上げるあたしにお兄ちゃんの眉がグッと寄る。


「つっ立ってねぇで、どけよ。入れねぇ」


お兄ちゃんは手でシッシッとまるで追い払う様な仕草をする。


「あ、ごめん」


そう言って脱衣場から出たあたしに、


「何かあったか?」


お兄ちゃんの問い詰めるような声が落ちてきた。


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