その手に触れたくて
向けた瞬間、目の前から黒いセダンの車が走って来てた。
Γ…お兄ちゃん?」
そう思ってすぐ、あたしの前で車が止まると、フルスモークの助手席と後部座席の窓が一斉に開いた。
Γ美月ちゃん、何してんの?」
Γ久しぶり〜」
助手席から声を掛けてきたのはお兄ちゃんの友達の悠真(ゆうま)さん。
後部座席から明るく声を掛けてきたのはあたしの隣の家に住む凛(りん)さんだった。
所謂、幼なじみってやつ。
その二人から視線を逸らし運転席へと目を向けると、またまた怒りに満ちたお兄ちゃんの顔があった。
Γお前…、何してんだ。こんな時間にこんな所で」
案の定、お兄ちゃんはあたしが思った通りの言葉を吐き捨てた。
Γまぁまぁいいじゃん。響もそんな怒んなよ!美月ちゃん乗んなよ」
Γそうだよー。一緒に帰ろ?」
そう悠真さんと凛さんが明るく言ってくれた言葉に、あたしは素早く首を振った。
Γえ、何で?何かあるの?」
凛さんが不思議そうに首を傾げながら言った直後、またまたお兄ちゃんの呟きが飛んできた。
Γ…ったく、お前は何ほっつき歩いてんだよ。危ねぇだろ」
今はそんなお兄ちゃんに言い訳も何もかも浮かばす、ただ目の前に居るお兄ちゃんにしかあたしは頼る事が出来なかった。
本当はお兄ちゃんになんて言いたくなかった。だけど、今はお兄ちゃんしか居なくて…ただ一刻も早く隼人を助けたかった。
だから――…