その手に触れたくて
お兄ちゃんがそう言ってる意味が分からなかった。隼人の所為であたしに被害?
別に隼人と居れるのなら構わない。だって、嫌ならとっくに別れてるもん。
ガチャっと開いたドアからお兄ちゃんの足が視界に入った。
Γどけよ」
そう言い放ってお兄ちゃんが足を進めた所為であたしの肩にお兄ちゃんの腕が勢いよくあたり思わず眉間に皺が寄る。
Γいい加減に――…」
Γ響、言い過ぎ」
いてもたってもいられないあたしは、つい口を開いた瞬間、誰かの声によって遮られた。
一瞬、背後から聞こえた声が誰だか分かんなかった。ママかと思ったけど、ママの声じゃない事はわかった。
じゃあ誰って数秒で答えを導き出すと、こんな時間に居るのは一人しか居ないと思った。
凛さんだ――…
Γあ?つーかよ、お前は何しに来た」
Γ来ちゃ悪い?」
Γ悪い。つーか気分悪いから帰れ」
お兄ちゃんは大きく息を吐き捨て靴を脱ぎ捨てる。リビングに向かうお兄ちゃんの足音が自棄に大きく耳に響いた。
Γってか響のそんな態度みてりゃこっちが気分悪くなるっつーの」
Γだったらとっとと帰れ」
Γ嫌よ」
Γあ?」
Γ聞こえなかった?嫌って言ったの。あたしさ、今日は響に言う事があって来たんだから」
Γ俺はねぇよ」
Γだからあたしがあるって言ってんの!!」
バタンと音を響かせ閉じたリビングの扉の後、やるせない凛さんのため息が大きく零れる。
未だに玄関のドアの真ん前に立っているあたしは、ゆっくりと踵を返し階段に立ってリビングの方向を見つめる凛さんを見つめた。
膨れっ面になった凛さんは頭を軽く掻き、そのまま視線をあたしに向ける。向けてすぐフッと優しく凛さんは微笑んだ。