その手に触れたくて

凛さんはそのままリビングの扉を開け、あたしは凛さんが中へ入って行く背後をボンヤリと見てた。


思わずため息が零れてしまった。


疲労の所為か頭がガンガンする。こめかみをギュッと押し一息吐く。


「疲れる…」


また隼人に申し訳なく感じる。って言うか、もういいのに。隼人がそこまで頑張る必要があるのか、あたしには分かんない。


Γ響、言い方ってもんがあるでしょ?ちょっとは考えなよ!!」


靴を脱いで階段に足を踏み入れた時、呆れ返ったような凛さんの声がリビングから聞こえ、あたしは思わず足を止めた。


Γお前には関係ねぇ」

Γだったらさ、いつもいつも家の前で揉め事起こさないでくれる?いい迷惑」

Γお前に迷惑かけてるつもりはねぇぞ」

Γ掛かってるの。毎晩毎晩、部屋にいると聞こえるの。もういいじゃん。響が決める事じゃないじゃん。何そんなに怒ってんの?そんなに怒ってちゃ、美月ちゃんも嫌になって帰って来なくなるよ?」

Γうっせぇな…」

Γうるさくさせてるのは響じゃん。人に決めつけられるのが辛い事だってあるんだよ?ちょっとは冷静になんなよ」


凛さんとお兄ちゃんの会話が聞こえる。


凛さんが話した少しの沈黙の後、小さく聞こえた足音とともにリビングの扉のガラスにお兄ちゃんの影が見えたのが分かり、あたしは慌てて階段を駆け上がった。

ガチャっと扉が開くと同時に、


Γねぇ、聞いてんの!?響は何も分かってない!!」


階段を上まで駆け上がった時、凛さんの弾けた声が響き渡った。



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