その手に触れたくて

Γお前には関係ねぇっつってんだろうが」

Γ関係あるとか関係ないとかそんな問題じゃない」

Γ……」

Γねぇ、響…。響はまだ自分の生き方に後悔してんの?」

Γ……」


自分の生き方に後悔?あたしの知らない会話に思わず息を飲み込んだ。


Γあたしは小さい時からずっと響を見てた。だから響の顔見ると何考えてんのかもすぐ分かるんだ。響は自分と隼人君を重ねてる」

Γ……」

Γだから嫌なんでしょ?同じ道進んだから大切にできないとかそお言う問題じゃないじゃん。あたしは響の歩んできた道は間違ってないと思うよ。そりゃさぁ、駄目な事も沢山あったよ?でも、だからと言って大切に出来ないとかは違うでしょ?」

「……」

「隼人くんの気持ちも分かってあげなよ。あそこまで毎日毎日来るのって普通出来ないよ?ましてや響の帰ってくる時間なんてバラバラなんだし。そこまでしてでも美月ちゃんと一緒に居たいって思ってんだよ?」


“言ってる意味、響にも分かるよね?”


そう付け加えられた言葉に思わず息を飲んだ。

その意味はあたしには分かんなかったけど、きっと凛さんが言った通りお兄ちゃんには分かったんだと思った。

何も言わないまま足音が近づいて来る。

そのお兄ちゃんの足音に、あたしは慌てて足を進ませ自分の部屋に入りゆっくりと音を出さない様にドアを閉めた途端、


「そこまで言っても分かんないんなら響は馬鹿だよ!!」


1階から張り叫んだ凛さんの声が2階まで響きわたった。

ドアに背を付けたままスーっと身体を滑らし、あたしは床にしゃがみ込む。


肩に掛けてある鞄を下に下ろし、あたしは鞄の中から携帯を取り出した。掛ける相手は一人しか居ない。

鳴り響くコールを聞きながらあたしは開いている方の手で膝を抱え、顔を埋めた。
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