その手に触れたくて

「だってそうじゃん。もう嫌…疲れた」


言ってはいけない事を言ってしまった。

あたしより隼人の方が相当に疲れてんのに、あたしは本当に言ってはいけない事を言ってしまった。


「ごめんな…」


なのに隼人の口からは謝る言葉。

その言葉に思わずあたしの頬に涙が伝った。


隼人と電話を切った後、無性にお兄ちゃんが憎かった。今までで一番嫌いなんかじゃないかってくらいに憎かった。

もう時間も時間。あたしにとっちゃあ出歩く時間なんて問題外って時間に、あたしは気づかれない様にこっそりと自分の部屋をでて靴を履いた。

外に出てすぐ握りしめていた携帯を開け、すぐにあたしはボタンを押す。


「…美月ちゃん?」


すぐに聞こえて来た凛さんの声に何故かあたしはホッとした。


「あ、あの…ごめんなさい。こんな時間に」

「ううん。いいけど、どうしたの?」

「今、凛さんの家の前で…」


そう言いながらあたしは足を進め、凛さんの家の前で足を止める。


「えっ!美月ちゃん、今外に居んの?」

「はい」

「ってか、ちょっと待って!」


プツッと切れた電話からツーツーと音が漏れる。切れたにも関わらず携帯を耳に当てたまま茫然と立ち尽くしていると、


「響きに何か言われたの?」


心配そうに声を上げる凛さんの声が辺りを響かせた。



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