その手に触れたくて
「だから、もう行きませんから…」
そう言葉を続けて吐きだしたあたしは軽く頭を下げて剛くんの横を通り過ぎた時、
「あんたが良くても隼人が良くねぇ…」
秘かに聞こえた訳の分からない言葉にあたしの足はまた止まった。
「どー言う意味ですか?」
振り返って剛くんを見ると、剛くんはあしに視線を送りながらため息気を吐き捨てる。
「隼人と上の奴らが揉めている」
「どー言う事?」
「隼人が抜けると言った」
「え?」
「あんた、何日間かアイツに会いに行っただろ?それが周囲に漏れてる」
「……」
「つか、近づくなって言っただろ?どーなるか分かんねぇって言わなかったか?」
…あたしの…所為?
「えっと…隼人は今…」
「裏で揉めてる。その半分はアンタも入ってる。だから忠告…」
「……」
「アンタの前に誰かが来ても自分の名前は隠しとけよ。じゃあ、」
「ちょっと待ってよ!!」
あたしから姿を消そうとしていく剛くんの背中に向かって、あたしは大声を出す。
そんな素っ気なく行かれても、それで納得出来る訳ないじゃん。
もっと、もっとちゃんと説明してよ。
何がどうなってんのかもっと、ちゃんと教えてよ!あたしの所為なんでしょ?
張り上げた声が聞こえているはずなのに剛くんは足を止めようとはせずにスタスタと歩いて行く。
その背後を見ながら何度も叫んだけど、剛くんは全く止まってくれなかった。