その手に触れたくて

だから、「ごめん」って小さく呟いたあたしは相沢さんから少しづつ視線を下げる。


「あたしにはもっと分かんないけど、美月…ちゃんと話しなよ。隼人に会いに行ったってほんと?さっきからの内容からすると剛くんにも会ったの?一人で抱え込んでないでちゃんと話しなよ」


今の今まで口を閉じていた夏美は落ち着いた声でそう言った。

確かにあたしは隼人に会いに行った事も剛くんに会った事も直司に言われた事も何もかも話していなかった。

それを話した事で夏美と相沢さんまでもを巻き込むのは嫌だと思った。


だから全て自分の中で押さえて全てを隠してた。


今…あたしの周りで…隼人の周りで何が起こってんのか分かんないけど、元はといえば全てあたしの所為だと思った。

あたしが…悪いんだ。


さっさと諦めていればこんな事になっていなかったのかも知れない。

あたしがしつこいから…



ごめんね、みんな。


「正直に言うと、隼人の事なんて諦めていなかった…」


小さく聞こえないんじゃないかってくらいに声をだしたあたしに、夏美と相沢さんは手を引いて、近くの喫茶店まで足を運ばせてくれた。

身体が寒さで麻痺してたのが少しづつ店内の暖かさで和らいでいく。


四人掛けの椅子の真向かえに座っている夏美と相沢さんに、今までの出来事を少しずつゆっくりと思い出しながらあたしは語っていった。

剛くんと数回出会った事。隼人に何度も何度も会いに行った事、その全てを目の前に居る夏美と相沢さんに全てを話した。


「忘れようとしても忘れられなくて、でもやっと忘れようって自分の中で決心がついた時なのに…なんでまた…。なんであたし、隼人なんか好きになったんだろう。なんかもう、自分がおかしくなりそうで怖いよ…」


ほんとに、隼人に入り込んでしまった自分が怖くなってく。

何でこんなに好きなのかも分かんない。


どーして、真面目でも何でもない隼人の事を好きになってしまったのか分かんないよ…



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