その手に触れたくて

「剛くんは自分じゃ無理って言ってた。そこまでの力はないって…」


続けて言葉を吐きだすあたしに、


「じゃあ、どーすればいいの?」


困惑した夏美の声が届く。


「でも…とりあえず言わないよりかはいいかも」


そう言った相沢さんはポケットから携帯を取り出してすぐに耳に携帯を押しあてた。

そしてそのまま席を外す相沢さんを見て思わずあたしは疲れた様にため息を吐き捨てた。


「ごめん、美月…」


ポツンと呟かれた夏美の声に反応して落としていた視線を少し上げる。

マグカップに手を添えてジッと視線を落としている夏美は閉じていた唇を少しづつ動かした。


「元はと言えば美月と隼人を合わせたのはあたしだ。こんな事になるとは思ってないし、ましてや隼人があんな奴だとは思ってなかった。あたしが美月に合わせてなかったら今頃、美月がこんな気持ちにはなって-―…」

「ち、違う。…それは違うよ夏美!!」

「……」


あたしの弾けた声で夏美はスッと落としていた視線を上げた。


「…違うから。そー言う形で会ってなくてもあたしは隼人の事スキになってたから。だから…隼人の事悪く言わないでよ…」

「……」

「ごめん…」


出会う形がどうであれ、あたしはきっと隼人を探して好きになってる。

隼人がどんな人であれ、あたしは隼人の事を好きになってる。


出会い方に悪いとかダメとか、そんなのないと思う。


出会った事に嬉しさを覚え、感謝したい。






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