その手に触れたくて

「あ、ごめん。あのさ、ちょっと剛と会ってくる。まだ、近くに居るみたいだから」


しばらく経ってそう言って来たのは相沢さんだった。

携帯を握りしめたままの相沢さんは椅子に置いていた鞄を肩に掛ける。


「大丈夫なの?なんか剛くんいい感じじゃなかったけど…」


不安そうに声を出す夏美は少し表情を崩す。


「あ、うん。大丈夫、大丈夫。…ごめんね。また連絡するから」


じゃあ…。と言った相沢さんは軽く手を上げてあたし達に背を向ける。

人生なんて一分一秒が大事だ。


だって、もしあの時、剛くんと出会ってなかったら、隼人の今の現状なんか何も聞いてない。

聞いてなかったら、もうホントに忘れる覚悟だったのに。


学校に行ってなかったらこんな展開にはなってなかったし。


そー思うと、隼人と出会ったあの日。隼人が教科書なんか忘れてなかったら隼人とは出会ってなかった。

もしもあの瞬間、あたしじゃなくて他の人だったら…って考えると悲しく思う。


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