その手に触れたくて
「ごめん夏美。…あたし帰るね」
しばらく経ってあたしはそう呟く。
気分が重いって言うか、このままここにいても何も変わらない。
「あ、うん…。美月、一人で帰れんの?」
「大丈夫」
そう言って沈んだ表情で微笑むと、夏美までもが悲しそうに笑った。
「なんかあったら電話しなよ」
「うん。ありがと」
店を出た後、夏美に手を振ってあたしはトボトボと家に向かって歩いた。
学校を出るタイミングが悪かった。…そう思ってしまうのはイケない事なんだろうか。
剛くんよりもっと先に帰ってれば、今…こんな気持ちになんてなっていなかったのにって帰りながらずっとそう思ってた。
寒さで頬が痛む。だけど、もっと痛いのは良く分からないこの感情を示す心だった。
「あ、美月ちゃんおかえり」
家に着くなり飛び交って来たのは何度か聞いた事のある声。
視線を上にあげると、駐車場に居た悠真さんがあたしを見るなり口角を上げる。
「…あ、久し振りです」
「うん。久し振り。つか、元気ないね、どーかした?」
“元気がないです”とでも顔に書いてあるんだろうか。悠真さんはコクンと首を傾げあたしはジッと見た。
「いや、別に…」
曖昧に呟いてスッと視線を逸らす先に見えたのはお兄ちゃん。
いつもだけど、宜しくない表情。
ほんと、嫌なんだけど。