天然彼氏。
君ったら、
ふと盗み見ると、君はいつも眠たそうに目を擦っていて――

その半開きの眼差しで見つめられてしまうと、思わず胸が締め付けられるようで、息ができなくなってしまう。

君の仕草一つひとつに目が釘づけになって、気づくといつの間にか、必死に追っているわたし……。


そんな愛しい君を、放課後に呼び出して告白を試みたわたしは、すっかり後悔してしまった。



「あ、あの……良かったらわたしと……そ、その……つ、付き合ってくれたり――」

誰もいない教室に、半ば強制的に連行して胸の内を伝えようとする。

こんな告白は、わたしが生きてきた中で初めてする、一世一代の決意だ。

その為、緊張のせいでどうしても上手く言葉が繋げられない。

どうしたものかと、ぼそぼそと俯きながらなんとか必死に話していたわたしに、予想もしなかった呑気な答えが返ってきた。


「うん、いいよ」

にっこりと微笑む君に硬直するわたし。


(う……嘘だっ!たぶん、いや、きっと……わたしは夢を見ているだけかもしれない)


だって、君は今まで一度だって、誰とも付き合ったことなんてないじゃないか。

バレンタインにチョコを貰っても、「家族と仲良く食べるね」と、渡した子をがっかりさせてしまうようなセリフを、持ち前の天然さで難なく言ってのけてしまう君なのに。


「い……いいの?」

「僕でよければ、喜んで……」

その、軽く首を傾げる仕草に、思わず赤面しながら舞い上がってしまって、次の言葉を待ち構える準備が整っていなかった。


「付き合うよ、買い物」

「……え?」


――何?

え……買い物?

買い物とは……わたしの知識が間違っていなければ、「必要な品物を売り場で購入する」という行為ですが。

君は「付き合う」ということと「買い物」をどう結びつけてわたしと会話していたのだろう。


「……」

「……?」

しばしの沈黙。

難しい顔で額に汗を滲ませながら、浮かび上がってきた疑問を脳内で素早く処理しようと奮闘しているわたしを、不思議そうに見つめてくる君。

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