天然彼氏。
――さり気ない。
ほんの些細なこと。
君が、わたしの名前を知っていた――。一度も話したことなんて無いはずなのに、どうして、なんで、覚えててくれてたの?
(クラスメイト……だから?)
勝手な想像をしては仕方の無いほどチクリと痛む胸を、恨めしく思いながらケーキにフォークを入れる。
「あ。僕の名前、分かるかな?」
わたしと同じ甘いタルトを上品に食べていた君は、突然顔を上げて思い出したように言った。
当然。
わたしが、君のあったかい名前を知らない訳が、ないじゃないか。
(名前の分からない人を呼び出して告白、なんて……わたしには到底出来そうにないから)
そっと。
他の誰よりも愛おしく思う君の名前を、緊張しすぎて掠れる声で、呟いてみる。
「――三笠、優太くん……」
――沈黙。
店内に流れる静かで美しいピアノのメロディだけが鼓膜を刺激することに、これ以上ないくらいの不安を感じるのは初めて。
耐えきれず、手に変な汗を掻きながらぎこちなく顔をあげてみると、君は目をまんまるにして停止していた。