天然彼氏。
(後でちゃんと謝ろう……)

そう考え、またしても目の前にある状況から逃げることばかり優先したわたしは、素早く体を回転させた。


けれども。


「待って」

ふわりと手に触れる温もり――ゆっくりと後ろを振り向くと、不安を顔中に滲ませた君がきゅっと手を握ってくる。


「僕が……僕が責任を持って松野さんのことを守るから……一緒に行こう、買い物」


君が何を言っているのか、わたしは理解できなかった。

だって、さっきは家で休んだ方がいい、ってあれほど悲しそうに、心配そうに言っていたじゃあないか。

君を見つめながら放心していたわたしの手をひいて引き寄せると、両手を改めて握り直して潤んだ瞳で問うてくる。


「……だから、そんな顔……しないで」


そんな……顔?


言われて人差し指で眉間をなぞってみると、そこには自分でも驚愕してしまうくらいの凹凸が出来ていて――風が薄く吹くと頬が冷たくなるのは、きっと涙で濡れているから……。


「ね……?」


(君がわたしの顔を見ていて、これ以上耐えられなくなったから声をかけてくれたのか――)


「ますます……惨め過ぎる」
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