お大事にしてください
痛み止め5
店の中である事を気にしている余裕はない。
パッケージを破るように開け、幸は薬を口に含んだ。そして、冷蔵庫から水を取り出し勢いよく飲み込む。冷えた水が、この時ばかりは不快に感じた。それを殺して、一気に飲み込む。胃の辺りがジンとした。
胃の中に、小さな錠剤が届くのがわかる。途端、痛みが嘘のように消えた。
「う、嘘・・・。もう、痛くないなんて・・・。全然、全然痛くないよ。」
「よく効く薬でしょう?」
驚く幸に対して、老人が話しかけた。薬がすぐに効いた事ももちろんだが、それ以上に老人に話しかけられた事に驚いた。
「は、はい・・・。よく効きますね・・・。」
老人の様子に何となく萎縮し、体を小さく丸めた。
「ただね、効く薬と言うのはいい事ばかりじゃないんです。わかります?」
「えっ、薬なんだから効いた方がいいんじゃないですか?なぜ、効くのがダメなんですか?」
「副作用って聞いた事ないですか?」
「あ、聞いた事あります。」
「その副作用がね、効く薬はすごいんですよ。」
話にノってきた幸に、老人は気を良くしたようだった。
「その薬、今は腹痛に効きましたが、それだけじゃないんです。他のどんな痛みにも効くんです。どんな痛みにでもですよ。」
「どんな痛みにも?」
それが本当ならすごい事だ。これで千五百円なら安いものだ。
念を押すように何度の幸は確認した。
「はい、どんな痛みにもです。歯痛、頭痛、打ち身、どんな痛みでもたちどころに消えます。さっきのようにね。」
老人の言葉を確認すると、パッケージを急いで鞄にしまい、店を出ようとした。
「どんな痛みにも効きますが、副作用の事は忘れないで下さいね。注意書きに書いてある通りに服用して下さい。」
それは囁いていると言っていいだろう。出口の側に来ていた幸には、きっと聞こえていない。
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