【短編集】時空郵便
瞬間、右手首を誰かに掴まれた。
身体が宙に投げ出されたまま止まる。
「死んじゃダメだ!こんな終わり方だなんて僕は絶対許さない!!」
俺より十は若いであろう青年だった。腹を手すりに食い込ませ、必死になって俺の身体を支えている。
「……なんで」
ヒーローなんかいないと思った。
4パーセントなんて起こり得ないと思った。
「早く!左手で手すりを!」
「うおぉ!」
俺は左手を伸ばした。
指先が硬質な手すりに触れる。掴んだ。
「……ありがとうございます」
するはずのない耳元で、目の前に居たはずの青年の声がした。
次の瞬間。
青年の姿はなかった。
「……は?」
遥か下から、何か重たいものが地面に叩きつけられる音がした。
青年は死んでいた。
駆けおりた俺は、青年だったものに近づく。
頭部は原形を留めていない。
何度吐いたか分からない。
震える手で探った胸ポケットから、小さく折り畳まれた手紙が出てきた。
『この手紙を発見された方へ
私はこの最後の手紙で何かを伝えたい人というのが見つかりませんでした。
両親は亡くなり、最愛の弟も先立ち、家庭もなく、仕事場は義務を果たす場でしかなく、居場所はありませんでした。
後悔があるとすれば何か一つでも誰かの為にしたことで胸を張りたかったなぁ。ということでしょうか。
結局は命を投げ出したところで死後の処理など他人に迷惑をかけるだけで終わってしまった。
すみません。
すみません。すみません。すません。』
ようやく分かった。
あの「ありがとうございます」の意味が。
「なんだよ、それ……」
俺を助けた。
誰かの役に立てた。
だから満足して
ーー死んだ。
「ふざけんなよ……」
感謝なんてできなかった。
こいつは俺を利用したんだ。
俺に生きろと押しつけて。自分だけ満足して死んだ。
「認めねぇ……認めねぇよ!」
こんな奴のせいで俺の人生が勝手に続いていくなんて。
そんなもの認められるわけがない。
「おやおや、随分と荒れていますねぇ」
後ろから声がした。
振り返る。
深緑色の制服。帽子。肩からぶら下げた鞄。
「どーも初めまして。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ。時空郵便の者でーす」
その姿に見覚えがあった。
「……あんた」
さっき。青年の死体の前にいた。
確かにいた。
「初めまして……だと?」
男の口元がわずかに動いた。
「いやだなぁ。アタシは今ここに着いたばかりですよ?」
「……」
「それより、過去や未来のアナタに届けることのできる手紙には興味ありませんか?」
男は真っ白な便箋を差し出した。
「人生でたった一度だけ。過去か未来のアナタへ必ず届きます」
俺は便箋を受け取った。
もし。
本当に過去を変えられるなら。
こいつを死なせずに済むのなら。
俺は――
身体が宙に投げ出されたまま止まる。
「死んじゃダメだ!こんな終わり方だなんて僕は絶対許さない!!」
俺より十は若いであろう青年だった。腹を手すりに食い込ませ、必死になって俺の身体を支えている。
「……なんで」
ヒーローなんかいないと思った。
4パーセントなんて起こり得ないと思った。
「早く!左手で手すりを!」
「うおぉ!」
俺は左手を伸ばした。
指先が硬質な手すりに触れる。掴んだ。
「……ありがとうございます」
するはずのない耳元で、目の前に居たはずの青年の声がした。
次の瞬間。
青年の姿はなかった。
「……は?」
遥か下から、何か重たいものが地面に叩きつけられる音がした。
青年は死んでいた。
駆けおりた俺は、青年だったものに近づく。
頭部は原形を留めていない。
何度吐いたか分からない。
震える手で探った胸ポケットから、小さく折り畳まれた手紙が出てきた。
『この手紙を発見された方へ
私はこの最後の手紙で何かを伝えたい人というのが見つかりませんでした。
両親は亡くなり、最愛の弟も先立ち、家庭もなく、仕事場は義務を果たす場でしかなく、居場所はありませんでした。
後悔があるとすれば何か一つでも誰かの為にしたことで胸を張りたかったなぁ。ということでしょうか。
結局は命を投げ出したところで死後の処理など他人に迷惑をかけるだけで終わってしまった。
すみません。
すみません。すみません。すません。』
ようやく分かった。
あの「ありがとうございます」の意味が。
「なんだよ、それ……」
俺を助けた。
誰かの役に立てた。
だから満足して
ーー死んだ。
「ふざけんなよ……」
感謝なんてできなかった。
こいつは俺を利用したんだ。
俺に生きろと押しつけて。自分だけ満足して死んだ。
「認めねぇ……認めねぇよ!」
こんな奴のせいで俺の人生が勝手に続いていくなんて。
そんなもの認められるわけがない。
「おやおや、随分と荒れていますねぇ」
後ろから声がした。
振り返る。
深緑色の制服。帽子。肩からぶら下げた鞄。
「どーも初めまして。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ。時空郵便の者でーす」
その姿に見覚えがあった。
「……あんた」
さっき。青年の死体の前にいた。
確かにいた。
「初めまして……だと?」
男の口元がわずかに動いた。
「いやだなぁ。アタシは今ここに着いたばかりですよ?」
「……」
「それより、過去や未来のアナタに届けることのできる手紙には興味ありませんか?」
男は真っ白な便箋を差し出した。
「人生でたった一度だけ。過去か未来のアナタへ必ず届きます」
俺は便箋を受け取った。
もし。
本当に過去を変えられるなら。
こいつを死なせずに済むのなら。
俺は――