ぼくらの事情
言葉とは裏腹に絆の顔色は酷く曇っていた。
今まで通り。
絆が寄せる想いを知って尚、発せられたこの短く柔らかい言葉の中には、優しい拒絶が含まれている。
「響生のお兄ちゃんなのに、ごめんね」
小さく笑ってみせた絆の顔に、何故か無性に胸を掻きむしりたくなった。
それが兄が帰って来ない喪失感のせいなんかじゃないのは、さすがに鈍い神経でもわかってる。
絆がフラれて安心してる頭の半分で、絆にこんな顔をさせた澪路への怒りが半分。
プラスαで、絆にこんな顔をさせてしまうくらい想われてる澪路への嫉妬も相俟って、頭の中はグチャグチャしてる。
「……嬉しい筈なのに、なんでこんなに悲しいんだろうね」
そんな混沌とした意識の中に唯一鮮明に浮かび上がるのは、今にも泣き出しそうな絆の顔だった。
絆の中を大きく占める存在は、優しく彼女を拒んだ。
行き場の無い哀しみは、絆の瞳に涙をどんどん溜めていく。