ぼくらの事情
浴室からは女子たちの可愛らしい話し声が聞こえている。
そして、持ち主不在の澪路の部屋では、
「なんかクラスのヤツが回して来たんだけどさー。間に合ってるって言ったんだけどねぇ」
「…………」
大型プラズマテレビに鮮やかにデカデカと映し出された映像に、響生は完全に固まっていた。
絆たちがお風呂から出て来る前に……。
ってワケで、端折られた前半部。
リモコンをいじる架が再生ボタンを押した瞬間、濃厚に絡み合う男女に必要以上に大きく甲高い声が部屋中に鳴り響いた。
まぁ……言わずもがな、いわゆるAVってヤツである。
「女子高生って設定の割に年食ってるよなーこの女優。制服に無理あるっつーの」
平然とした顔で目の前のピンク映像を指差し笑う架が、チラッと響生に目をやれば、
「tanθ=sinθ/cosθ……」
「……響生?」
両手で耳を押さえ、必死にブツブツと数式を唱え始めている。
男子高校生にあるまじき光景に、とりあえずリモコンの停止ボタンを押し、
「なぁ……響生」
珍しく真剣な顔をした架が、響生の正面に座り直した。