ぼくらの事情

立候補じゃないとは言え、絆にやる気が無いワケじゃない。



今まで学校という空間に居ることを放棄していた自分が、こうしてクラスメートに必要とされ、一緒に何かを作り上げていくのは思いの外楽しい。


それくらいの気持ちで臨んでいるはずなのに、どうしても絆には集中出来ない理由があった。



台本片手にあれやこれやと話し合う劇担当のクラスメートたち。


笑い声混じりのそれに耳を傾けてみるけど、やっぱり集中出来そうになかった。



「任せてよ。絆がとちっても僕がちゃんとフォローするからさ」



ぼんやりとお揃いの台本を持った人たちの輪を見ていた絆を、不意にいつもの笑顔を浮かべた玲於が引き寄せる。


「だから安心して? 僕が傍に居るよ」



……響生が居なくても。


そっと耳打ちされた言葉に、絆の胸が大きく跳ねた。


それは玲於から香る、ふんわり甘い匂いのせいではない。


顔を寄せた玲於に色めき立つクラスメートの声が、絆には他人事のように聞こえていた。
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