ぼくらの事情

「変なのは二人ともっ! 人の手を握ったまま喧嘩しないでよねっ」


二人に掴まれていた手を揺さぶり、唇を尖らせてみせた絆はどこか楽しそうで、



「アレだね。先に手を離した方が本当の母親ってヤツ。ほら、咲奈離せよ」



それに乗じた架がこう言って、そっと自分の方へと絆を引き寄せた。


「ヤダよっ! だったら架が離しなよ!」


架の煽りで余計に意固地になった咲奈は、思いっきり絆の腕にしがみついた。


「痛がる我が子を思って手を離すのが母親なら、離せない程愛しいのも母親ってね」


「あっ!! 架!!」


手を引いただけではまだ飽き足りず、咲奈を無視して絆の腰を抱く架に咲奈の怒りは絶頂に達する。


絆から架を突き飛ばし、言い争う二人はまた振り出しに戻る……。


しばらくは収集がつきそうにない二人を見つめる絆は、満面の笑みを浮かべていた。
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