ぼくらの事情
「お、おぅっ」
とは言え、今の今とて絆の顔を正面からまともに見ることさえ躊躇われた。
絆の顔を見れば自然と桜色の唇に目が行ってしまい、
昨日ぶつけて少し腫れた下唇がじわっと熱をぶり返すような、そんな感覚さえしてくる。
「ちょっと響生大丈夫? また顔が……」
「大丈夫に決まってんだろっ。あんな女、ちょろいっ」
また赤みが差した頬を隠すように、余裕ぶってみせる響生が不安で仕方無い。
いくら響生が優秀な生徒会長でも、女の子の扱いに関しては小学生レベル。
たった一言。
悪気は無かった、ごめん。
これが言えるかどうかすら危うい。
「…………」
そんな咲奈の気持ちに気付くワケもなく、響生はさっきと変わらない余裕ぶった顔のまま教室に向かっていった。