ぼくらの事情

書類はあっさりと彼の手に戻され、椅子から立ち上がった理事長は食えない笑顔を浮かべる。



悪い予感がする。
しかも生徒会長の彼にとってそれは、初めての感覚じゃない。



「というか、彼女の母上からよーく頼まれててね。僕、あの人に頭が上がらないんだ」


「……で? その面倒事を俺に押し付けようって魂胆ですか? 理事長」


「怒らない怒らない。それも生徒会長の仕事だろ? 響生(ひびき)くん」



響生と呼ばれた瞬間、生徒会長の表情は跡形も無く崩れ、物凄い不機嫌な顔で理事長を睨み付けていた。


最早そこに、理事長と生徒会長の顔など無くなっている。



「ふざけんなっ! なんで俺が落ちこぼれの面倒見なきゃなんねぇんだよっ!」


「響生ー。そんな傲慢な言い方は良くないって父さん言ってるだろ。退学にしちゃうぞっ」


「息子を脅すなっ」



品行方正で優等生な生徒会長は、怒りの形相で我が父に噛みつき始めた。
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