影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「いいか、百合…」

「『勝てねば逃げの一手。遁走もまた忍術なり』…でしょう?甲斐様」

私は甲斐様の言葉の先を口にする。

「生意気な奴め」

もう一度甲斐様が笑う。

「わかっているならばいい…くれぐれも命を粗末にするなよ?うつけの兵如きに手込めにさせる為に、お主を鍛えた訳ではないのだからな」

「わかっております」

私は頷く。

甲斐様が私の身を案じてくれている。

それは素直に嬉しかった。

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