影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
ならば、と。

甲斐様は握ったままの苦無を私に差し出した。

「お前は体が小さい。忍者刀は日本刀よりも刀身が短いものの…それでもお前の身には少々長すぎる代物だ。お前ならば苦無のような得物の方が取り回しも良く、向いている」

「……」

私は無言で甲斐様の苦無を受け取る。

感激していた。

憧れの小頭、甲斐様の得物を頂けるなんて、身に余る光栄…!

「代わりに…それを貸せ」

甲斐様は私の手から忍者刀を奪い取る。

「…うむ、よく手入れされている。大した業物だ」

忍者刀をかざして呟く甲斐様。

愛用の得物を交換して頂けるとは…。

まるで恋人同士のようだ。

私は慌てて頭巾を被った。

そうしないと、にやけた顔を甲斐様に見られてしまいそうだったから。

「一生大事に致します、甲斐様」

「んん?」

甲斐様が怪訝な表情を見せた。

「おかしな事を言う奴だな、お前は」

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