【短】雨宿り
空っぽになった向かい側には、髭男が持ってきたのか、紙袋がひとつ置き去りになっていた。

それに手を伸ばす瞬間、床に落ちたカードに並ぶ文字が私の視界に飛び込んで来る。

気づくと私は紙袋とカードを持って駆け出していた。


すれ違いの生活が寂しくてたまらなくて。

不安で、嫌な妄想ばかり膨らんで、怖くて、でも確かめるのはもっと怖くて。

前と同じように『嫌いになったつもり』で逃げ出そうとした。

彼のいない毎日なんて、本当は考えられないのに。


支払いを終えたさっきの髭男は、レジ横のホコリ被ったコウモリ傘を掴み、ちょうど自動ドアをすり抜けようとしているところだった。

「待って」

そのパーカの裾を掴み

「……私も帰るから」

ひき止める。

「あかの他人さんと一緒に?」

「あ……えっと」

返答に迷っている間に、彼は裾を掴んでいた私の手を取って

「カレー、食う?」

勝ち誇り気味に尋ねる。

ちょっとだけ悔しいけど、私はコクンと頷いた。

「絆創膏入りだけどね」

「マジで!?」

「うそ。多分」

「多分?」

そして一緒に自動ドアを抜ける。

雨は未だ降り続き、止む気配はまるでないけど、なんとなくいとおしくて空を見上げた。

彼はそんな私を店の横の軒下へ引っ張ると、持っていた紙袋を私の手から取る。

地面に向かってひっくり返されたそこから出てきた中身は

「どっちにすんの?」

カーキと焦げ茶色のクロックス。

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