【短】雨宿り
「……茶色」

そう呟く私の足からカーキを脱がし、雑に紙袋へ突っ込む彼。

両足焦げ茶で揃えると、今度はパーカを脱ぎTシャツ姿になった彼は、それを私の腰に巻き付けた。

珈琲のシミが隠れるように。

「呆れるほど手のかかる女だな」

でもコッソリ見上げれば、なぜだか口にした言葉とは裏腹に、楽しそうな彼がそこにいた。

「まぁ、大学とか行かれてたら俺の予定狂うから、バカな女で助かったけど」

そして、風になびく私の髪に触れて、優しく頭を撫で、尋ねる。

「雨、まだ嫌い?」

もう、そうでもないけど。

案外雨も素敵なものかもしれないと思いながらも、

「……キライ」

結局いつまでも勝てない彼に、悔し紛れにそう答える。

1年前──

突然の雨に戸惑って。

咄嗟に雨宿りしてみても店の中に入る勇気なんかはあるはずもなくて。

ただ寒くて冷たくて、寂しかった。

声をかけられても彼の気紛れにしか過ぎないと感じてて。

車に乗ってもその助手席に座った女の数を考えてて。

部屋に入っても視界の片隅に入り込む乱れたシーツに嫉妬して。

なんとなく服から漂う雨の匂いが焦燥感を掻き立てた。

私はいつも不安で、どこまで行っても片想いな気がしてならなくて。

信じる勇気がなくて。

雨が降る度、あの日の焦燥感が蘇り、私だけの一方通行なんだって思い知らされて。

私は雨がキライになったんだ。
< 31 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop