俺様王子と秘密の時間

◆今夜は帰さない



鼓膜が破れてしまいそうな程の、けたたましいエンジン音が響いた。


あたしと千秋の動きが止まった時、駐輪場の方から一台の黒いバイクがこちらに向かってきた。

ライトに照らされる雨がやけに綺麗に見えて、だけどその直後。


ずぶ濡れのウェーブの髪が視界に入りこんだ。



「は……羽鳥?」


あたしが呟くと千秋はめんどくさそうな表情で舌打ちをした。


バイクがあたし達の前で止まる。



「近づくなっつったろ?」


それは千秋に向けて発っしているモノだった。

降りしきる雨音にもエンジン音にも負けないくらい羽鳥の声はよく通った。



胸がズキンと音をたてる。

なんでかはわからなかったけど、キスをされた後じゃ羽鳥の顔なんてまともに見れないよ……。



「シイ、後ろ乗れ」


うっと声を詰ませるあたしは“やだ”とも“うん”とも言えない。

 

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