満月の銀色ススキ


「だから、明後日の夕刻に来るおまえが二日も時期を早めたって訳か」


「正確には、一日と二十時間と三十七分だ」


澄んだ灰の目が、納得したように目を細めた。
それに、闇に溶ける瞳は答える。

相変わらず、感情は見えない。

辺りは暗いまま。
時間が止まったかのようだ。

そんな中、凛と通る声が響く。


「本来の持ち場を離れるのだ。丁度いい到着に変わりない」


その言葉に、思わず息を吐いた。


「相変わらず、おまえはつまんねぇな」


「私は課せられた責を全うする為に動くだけさ」


僅か、口角が上げられる。
誰も気付かないような小さな変化だった。

西の主は、言葉の割りに面白そうに笑みを落とす。


「おまえはつまんねぇけど、俺は嫌いじゃあない」


「毎年、聞いているな」


とん、と靴の音。
それに黒い人影は宙に浮く。

にんまりと、西の主は笑った。


「毎年、そう思うからな」


ザザザ、と風が駆けて行く。
雲が再び流れ、月が見え始める。

月明かりに白銀が輝いたとき。
既に、人影は見えなくなっていた。

残された西の主は空を見上げる。


「さて、どうするかねぇ…」


面白そうに、顎を撫でる。
同時に働く興への思索。

しかし。

何処か溜息めいた言葉に気付いたものは、誰一人いなかった。
< 66 / 72 >

この作品をシェア

pagetop