満月の銀色ススキ
ザワザワと、世界がざわついていた。
風が速い。

月が雲に隠れてしまった。

痛いほどの静寂。
それに酷く同化したにおい。


「…来たな」


ぽつんと落とされた言葉。
それをきっかけに、影が集束する。

影はやがて人の形を取った。


「久しいの、西のヌシ殿」


漆黒の長い髪と瞳。
同じ色の服はマントのように形を朧気にしている。

西の主は、その存在をよく知っていた。


「今年は随分と早い着きだ」


「少し気になることがあってな…」


男性とも女性とも取れる顔立ち。
その瞳が細められる。

細められた瞳は何の抑揚も感じさせなかった。
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