S・63
憧れのベッド


リアル・ドラえもん


アパートは二部屋しかなかったので
一部屋は家族4人が床に就く部屋で
もう一部屋はTVやテーブルが置いてあり
家族団欒のスペースであった。

その頃私はベッドに憧れていた。
勿論狭いアパートには置けるはずもなく
ベッドは私の家庭からほど遠い存在であった。
ある日母が何をひらめいたのか
「ドラえもんみたくアンタ押し入れで寝な」
その一言で私は舞い上がった。
今冷静に考えると
少し恥ずかしいが
その時は“ドラえもんと同じ”
その感覚が嬉しかったのだ。
私はその晩から押し入れで寝る事にした。
押し入れは実に快適であった。
今まで家族4人で寝ていたものだから
ひとつのスペースに自分1人しか居ない事が特別な感じに思えた。
押し入れベッドは思いのほか人気で
兄が「僕も押し入れで寝たい」と言ったので
一緒に寝たりしたものだ。
しかししばらくたって飽きたのか
やっぱり普通のベッドが1番だよな~…
という事に気付き
脚光を浴びていた“押し入れベッド”は
いつのまにか誰も寝なくなっていた。
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