泣き虫Rocker

お金では買えないらしい

Kishのギタリスト、イチが、あのイチキだって。
おじさんが用意してくれた黄色のKishのTシャツを上から重ね着して、タオルを首から掛けたらどこにでもいる、ライヴに来た女の子だ。
開場の時間が過ぎるとそのまま促されて、あたしはちゃっかりと中央からやや左寄り。イチの前に陣取ってしまった。

イチがイチキと同一人物ってことはわかってる。わかってんだけどっ!

始まってしまえば関係ない。曲とヴォーカルの井之村さんのトーク、そして小さなハコの雰囲気にのまれてしまうだけ。

KishのKって曲は激しいロックナンバーで、イチのソロが痺れた。
やはり、CDから聞くのとその場で演奏している生の音を聴くのとでは全然違う。

冷静になった頭だったらカッコつけんなって、冗談も大概にしてよって、イチキに言えるのに。

わかっているのに、くらりとよろめいちゃったあたしの心は坂道を転がるようにスピードを増して転がって行く。

泣き虫イチキのくせに、なんて思っても。
あのギターソロにやられてしまった。
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