泣き虫Rocker
「変わってないなぁ、園田って」

更なる笑みを見せて、イチキは近くにあったキャップを手に取った。
タイミングよく、ドアがノックされて、少しだけ空いた隙間。声だけがその耳に届いた。

「イチ、スタンバイ。浩太がイライラしてる」

「りょーかい。ねぇ、柳さん。開場したら、こっそりこの子中に入れてやってよ。あ、Tシャツとタオルもやって。Tシャツは俺と一緒。黄色ね」

イチキはあたしを完全無視した返事をした。その返事に釣られるように顔を覗かせたおじさんは、あたしを見て驚いた顔をした。
イチ、女連れ込むなっと一言添えて。

「じゃ、園田」

手を軽く振って、キャップを目深にかぶってイチキはそこに立てかけてあったギターを手に取った。

「ステージで会おうぜ、Kishのギタリスト、イチのパフォーマンス見逃すなよー」

泣き虫イチキとは程遠い背中にぐらりときてしまった。
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