泣き虫Rocker
「うっす!」

上半身裸のイチキが座っていて、缶コーラをぐびぐびと飲んでいた。
その身体を目に入れてボッ、と一気に顔に熱が集まった。思わず背を向けてしまった。

あー、あー、もうだめだ。
完全に、落ちてしまった。

口だけは達者に、服を着てよ、と言えるけれど、内心バクバクだったりする。

「どーだったよ? 俺のパフォーマンス」

振り返ったらKishの黒のTシャツを着ていた。あたしとおそろいになっていた。

かっこよかったろ? にしても、園田かなり跳びはねてたな。すげー目に入った。園田があぁもノリがいいなんて想像つかねぇし。

ギターを弾きながら、あたしが見えていたとは。
100人ほどが前のほうに押し詰めてきていたにも関わらず、あたしをみていた!

やばいやばい。
あぁ、くらりくらり立ちくらみみたいにふらふらする。

「Kishのどの曲がいい?」

「K!」

ライヴの興奮が醒めないまま、熱に浮かれたあたしは思わず2人の距離を詰めてしまった。

微かな汗の匂いと、熱気が伝わる。シャワーを浴びたのか、あたしのほうが汗臭い。けれど、髪の毛をつたる雫さえ、見えてしまう近距離に、怯む。
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