窓越しのエマ
太陽の位置がさっきよりも随分と水平線に近づいているような気がする。

遠くの沖に貨物船が一隻だけぽつりと浮かび、そのはるか上空でV字隊列を組んだ渡り鳥が南に向かって飛んでいた。

夏の気配が消え去る前に、繁殖を終えた鳥たちは早々に越冬地へと帰っていくのだ。

もうそんな時季がやってきたのと思うと、何か物悲しい気分になってしまう。

時の流れは恐ろしく速く、移ろいゆく町並みとともに僕を置き去りにしていく。


「二人で遠くに行ってみようか」

と僕は言った。


「遠くって?」


「ここじゃないどこか。エマがいれば僕はどこでもいいんだよ」


エマは僕から顔を背けて、海のほうに目をやった。


「駄目よ。私たちはここじゃなきゃ生きていけないんだから」


「そんなことないよ。どうしてそんな風に思うの? 今日のエマはおかしなことばかり言ってるよ。僕が世界で二番目だなんて……どうしてあんな馬鹿げたことを言ったのかな?」


「本当のことよ」


やっぱり変だ。エマがこんなことを言うなんておかしい。


「嘘だ。そんなはずないよ。じゃあ一番目は一体誰なの? まさか、そいつがいるからこの町を離れたくないって言ってるの? ええ? 答えろよエマ」


エマは一歩あとずさりし、また僕の腰のあたりを指差した。

その瞬間、左手にずしりと重みを感じる。

いや、さっきからずっと重く冷たいものを持っていたような気がする。

僕は左手を見た。
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