窓越しのエマ
若い男が僕とエマのあいだを通りかかる。

男は、素っ裸で立ちすくむエマを見向きもせず、はしゃぎ回る犬に何事か声をかけながら、砂を噛みしめるような足取りでゆっくり通り過ぎていった。

興奮気味に駆け回っていた犬が不意に動きを止め、エマのほうを振り返って一度だけ吠えた。

エマは犬に向かって嬉しそうに手を振った。


エマが僕のところに駆け寄ってくる。


「犬、飼いたい」


エマは脱ぎ捨てたワンピースをござ代わりに敷いてから、僕の横に腰を下ろした。


「僕は猫のほうが好きだよ」


「じゃあ、両方飼えばいいんじゃない?」


エマは両手で膝を抱え、その上にあごを乗せて僕の顔を覗きこんだ。

濡れた髪が額に張りついている。

海水が頬を伝ってしたたり落ち、砂の表面に黒い斑点を作ったが、たちまち熱にかき消された。


僕はあらためてエマの体を眺めた。

完璧だ、と僕は思った。

見るほどに美しく、文句のつけようがない。

加工を施す必要のない天然宝石のような、けがれのない純然たる美が凝縮されていた。

そしてこの宝石は僕だけのもので、一生手放すつもりはない。
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