窓越しのエマ
「犬も猫も、飼いたいとまでは思わないよ。エマさえいればあとは何もいらない」


言い終えて僕はふと思い至り、陳腐な科白をつけ加えてみた。


「エマは世界で一番大切な人だよ」


エマはにっこりと微笑んだ。

彼女の縦長のえくぼが、僕は何よりも好きだ。


「ありがとう。あなたは私にとって世界で二番目に大切な人よ」

と、エマは言った。


僕は耳を疑った。


二番目だって?

どういう意味だろうか。

どうして僕が一番じゃないんだろう。


訝る僕をよそに、エマはやおら立ち上がり、ござ代わりに敷いてあったワンピースをばさりと広げて砂を払い、それを身につけはじめた。


「ねえエマ、今、二番目って言わなかった?」


脱いだ時と同じように、ものの三秒でワンピースを着終えたエマが、事も無げに答える。


「そうよ。あなたは二番目」


そんな馬鹿な。

どうしてこの僕が二番目なんだ。

僕はエマの言葉を反芻してみたが、わけがわからなかった。


「どうして一番じゃないのかな? おかしいじゃないか」


エマは僕の質問には答えず、両手を上げて伸びをした。


僕は段々苛立ってきた。
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