学園(序)
笹原先輩の歌が動とすれば、龍先輩の歌は静である。

傍に歌のお姉さんがいると思うくらいに癒される。

子供がいれば、微笑を浮かべていたに違いない。

懐かしさのあまり、別の意味で感動した。

歌が終了すると、恥ずかしげにはにかむ。

「先輩、俺、最近のストレスなんかぶっ飛びました」

「むー、恥ずかしい事を言うでない」

「あははははは!部長すっごい!昭和の歌手みたーい!」

褒め方がよくわからないが、上手いということなんだろう。

何だろう、この胸の高鳴りとときめき。

今ので更に惹かれる部分が大きくなってしまった。

俺の気持ちはさておき、席順からすれば次は乾の番だ。

だが、乾は無言の圧力で拒んでいるのがわかった。

元より乾は遊びに来ているのではないので、無理に歌わせれば何をされるかわからない。

他の皆も空気を読んでか、何も言おうとはしない。

自然と入力の器械がこちらに流れてきた。

「俺か」

「あははははは!丞君!期待してるよー!」

何でプレッシャーをかけてくるんだよ。

たまにカラオケに行くぐらいで、歌が上手いわけでもない。

だからといって、下手でもない。

少し前に流行った『空の歌声』というバラードの曲を入れて、マイクを握る。

バラードはあまり聴かないのだが、この一曲だけは深く知っている。

一時期、何もしたくない時に流し続けていた曲だ。

歌でも聴けば、少しは癒されるんじゃないかと思っていた。

全ての傷は癒えてないが、外に出られるくらいにはなった。

少しくらいのやる気を出させたのはこの一曲だといって良い。

ゆったりとした曲調で、恋愛だとか、誰かの死だとか、感動を狙った歌詞ではない。

生活の中にある、ありふれた世界を綴った詩である。

有り触れているからこそ共感することが出来たんだ。
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