学園(序)
歌の微々たる違いなんて、素人が聞いたところでわからない。

俺だって分からないよ。

ましてや、気持ちの面でなんか解った方が凄い。

でも、本当にそう思ったんだ。

上手いのは嘘じゃない。

でも、楽しそうに歌ってないんだ。

吟ネエと長く付き合ってきたけど、これほど楽しくなさそうな吟ネエを見るなんて思わなかった。

言い換えれば、人形っぽさなら出ている。

でも、吟ネエは生きていて、ちゃんと歌を奏でている。

「吟ネエ」

俺が吟ネエの名前を呟いた時には歌が終わっている。

呟きが聞こえたのか、吟ネエが変わらない顔でこちらを見る。

「私の歌、感動したアルか?」

「ん、まあね」

「くくく、これで男を虜アルね」

引くから、止めといた方がいいと思うけどな。

でも、きっと褒めるだろうね。

吟ネエの体を求める奴ならば、人形っぽく歌っても関係ないからな。

でも、俺は納得出来なかった。

歌うって、そんなにつまらない事なのかな?

声が枯れる程一生懸命に歌えば、ストレスの発散にもなるし、きっと楽しいと思うんだ。

それを吟ネエには解って欲しかった。

お酒を飲むだけじゃない、人と性交をするだけじゃない。

生きてるって、他にも楽しい事が溢れてるはずなんだ。

それは人間の進化と共に数え切れない程に増えてる。

吟ネエ、きっと損してるよ。

俺が考え事をしている内にもう一周が始まった。

笹原先輩は楽しそうに、龍先輩も恥ずかしそうにしても聞き惚れる物があった。

でも、吟ネエは変わらなかった。

俺は、それが嫌だった。
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