学園(序)
「吟ネエ、ちょっと」

「お、情事アルか?」

吟ネエの腕を引っ張って部屋から出る。

3人がこちらを注目しているけど、俺には気にならないほど重要なことだった。

別に部屋の中でも良かったけど、二人で話したかった。

「吟ネエ、ごめん」

誰も通りそうにない廊下で、吟ネエに頭を下げる。

「んー?」

「吟ネエにとって歌う事が楽しくないなんて思わなくてさ」

「いつ、私が楽しくないと言ったアルか?」

「じゃあ、歌ってて楽しい?」

「飲酒以下アルな」

それは楽しいとは言えないんじゃないか。

「もう帰ろう?楽しくないのに、居続ける吟ネエを見たくないよ」

「何言ってるアル、まだまだ時間はあるアルよ」

「嫌だよ。どうしてもっていうなら、オレが無理矢理連れて出て行く」

「お前って自己中アル」

「吟ネエもね」

二人の間に少しの沈黙が漂う。

「お前は歌ってて楽しいアルか?」

「俺は楽しいよ。吟ネエと、皆と来れて、自分が歌ってても楽しい」

「良かったアルな」

「吟ネエにも楽しんで欲しい。だって、吟ネエがつまんないと俺もつまんないよ」

「お前、重く考え過ぎアル。楽しくなくても上手くなればそれでいいアル」

上手くなってどうするんだろう。

プロにでもなるつもりなのかな?

でも、一度でもいいから、笑顔で歌って欲しい。

もちろん、作り笑顔じゃなくて本心からの笑顔だ。

「俺は吟ネエが下手でも良かったんだ。楽しく歌ってくれれば、それで良かったんだ」

「お前、私の『何』になるつもりアルか?」

「『何』にって?」

「説教じみたことを言って、お前は私の笑顔を求めるアル。でも、それだけが目的とは思えないアル」

「今は、吟ネエの何かになるかなんてどうでもいいんだ。俺は、吟ネエの楽しく歌っている姿が見たいだけだよ」

「わがままな奴アル」
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