…好きだったから。
…好きだったから。


「行ってらっしゃーいっ!!」

「…行ってきます」

玄関口で恥ずかしげもなく大きな声を出し、これでもかと両腕を振り上げたわたしに、聡は目許を引き攣かせ、怯んだような小さな声で答える。

わたしのとびきりの笑顔に応えるかのようなはにかんだ笑顔を残し、聡は静かに玄関の扉を閉めた。


その姿が消えた途端、わたしは窓辺まで駆けて行き外の景色を眺める。

2階建てアパートの2階の角部屋から窓を開け、下を覗き込むと聡がアパートの狭い入り口から丁度よく姿を現した。


「…行ってらっしゃい」

後ろ姿を見送り、ぽつりと呟いた声は、そよ風と共に囁かれた。


わたしは益山 瞳(マスヤマ ヒトミ)。
18歳。高校卒業して就職活動中。

彼、高山 聡(タカヤマ サトル)。
19歳。高校の同級生で今年の春から社会人。


わたしたちは付き合ってもうすぐ2年。春から一緒に住み始めてもう2ヶ月が経つ。
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