…好きだったから。
ビリだった彼は諦めずに走り抜いた結果、3位の表彰台に立ち上がる。
1番ではなかったけれど、一緒に闘ったクラスメートと肩を抱き合い、溢れ出す笑顔は遠目でもキラキラと輝いているように見受けられた。
カシャ。
その嬉しそうな笑い顔に、思わずシャッターのレバーに手をかけた。
その時切り取られた映像は、学校新聞の小さなスペースに貼られていた。2年に進級してここでようやく、わたしの写した写真が初めて使われた。
[撮影:2年E組 益山 瞳]
ひっそりと学生証に潜ませていた切り抜き。今は手帳のポケットに差し込めている。
嬉しかったから。
好きだった彼の笑顔が収められて。そして、学校中の生徒や先生の目に留められて。初めて名前を残すことができて。
本当に嬉しかったから…。
この切り取られた写真の中では、いつだって聡は笑いかけてくれているから。
…捨てられないよ。