最期のYou Got Maile
やだ…。何を言ってるの?そんな優しい言葉をかけないで。優しい眼差しを向けないで。せっかく止まっていた涙が溢れてくる。
「メル嬢…?何で泣くの?」
 子供は嫌いだ。こんなにもズカズカと、遠慮無しに人の心に入り込んでくる。
「君が思ってる程、死ぬのって簡単な事じゃないんだからね!」
 心とは裏腹に、私の口からは汚い言葉が吐き出される。本当は、彼の胸にすがって大声で泣きたいクセに。
「そうだと思う。簡単じゃないだろうけど、僕は思った事しか口にしない」
 彼の胸に顔を押しつけられ、そのまま強く包容される私。抵抗なんてできなかった。私がそれを望んでいたから。
「ごめんね」
 不意に、彼の口から謝罪の言葉が漏れる。
「僕がまだ子供だから、メル嬢の事を安心させてあげれなくてごめんね。子供だから、わかんない事、沢山あってごめんね。子供だから、メル嬢の事、こんなに悲しませてる。本当にごめんね…」
 謝らなければならないのは私の方だ。
 私は、時々彼が中学生である事を忘れる。彼の包容力に甘えてしまう。十代の彼にとって、これから死んでいく女にすがられる事がどんなに重荷な事か、私は考えてもいなかった。きっと、私の病状を知った時、彼は逃げ出したいと思っただろう。実際、そうすることも出来た筈だ。でも、彼はしなかった。彼はこうして、私を抱きしめてくれた。それが、十代の彼にとって、どんなにか苦痛だった事か…。
 謝らなくてはいけないのは私の方だ。私は本当に利己的で、彼の優しさに甘えていた。ずっと、このシロップのように甘い夢に浸っていたいと考えていた。でも、やっぱりそれではいけない。
「もう、会わないで…」
 私は、喉から絞り出すように、彼にそう告げた。
「君と私では、もう住む世界が違うの。さっき君も言ったでしょ?死後の世界は生きている人のためにある。私もその通りだと思うわ。私はもう生きていないの。死人なのよ。だから死後の世界にすがるなんて事はしない。もう私は、『無い』存在だから、君と一緒にはいられないわ」
 私は彼を押し退け、顔を背ける。今彼の顔を見てしまったら、この決心が揺らぎそうだから。
「…出ていって」 
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