KEEP OUT!!

 いわれた言葉の意味が飲み込めずにいると、

「よくさ。後悔のない恋をしなさい、なんていうじゃない?」

 そんな話から、始まった。

「わたしは、紗智ちゃんみたいな複雑な恋なんてしたことないけど、この場合の恋ってさ──たぶん、後悔することが前提なんだと思うの」

「後悔することが、前提?」

「うん。だって、どこにどう転んだとしても、ペアはひとつしか生まれないわけじゃない?」

 人の身体は半分には出来ないし、均等に分けられた気持ちは“博愛”であって“愛”じゃない。

「もし、ね。八重ちゃんのために紗智ちゃんが黙って身を引いたとするわ。それって、本当に“誰も傷つかない”? そんなことないわよね。“紗智ちゃん自身”が傷つくわ」

「でも、わたしは……八重ちゃんがどれだけ亮平のこと好きか、知ってるもの……」

 わたしは、昨日、たまたま、気付いただけ。

 例えそれが偽善だとか自己満足だとかいわれたとしても、わたしの方が傷が浅いはずだし、痛みも哀しみもすぐに癒えるはず。

「あのね。わたしは紗智ちゃんが好き。八重ちゃんも好き。亮平くんも、まぁ草太の次くらいには好き。だから本当は誰にも傷ついて欲しくない」

 ふわり、と──抱きしめられた。

「でも、きっと誰かが傷つく。だから、もし、紗智ちゃんが“好きになって日が浅い”と思ってるなら──勘違いしないで欲しいの」

「え?」

「好きって気持ちに深さも、大きさもないの。あるのはただ“好き”ていう確かな事実だけ。それが本物なら、痛みは、等しい深さと大きさでやってくるわ」

 本当に、まゆみさんはときどきするどくて敵わない。

「悩んだ末の答えなら、わたしはそれを今と同じように抱きとめてあげる。でも、相手を傷つけてしまうから、というのは傷つけることで自分が傷つきたくないっていう詭弁。それは勇気なんかじゃ、ない。本当の勇気って、きっと──」

 風が少し吹いて、まゆみさんのシャンプーだろうか、甘い香りが鼻をかすめた。

 そしてわたしから身体を離して、真っ直ぐに見つると、


「“傷つき合う”ことを怖れないことを、いうんじゃないかな」



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