ケイカ -桂花-
「宮崎・・」

『うん?』

「会いたい、・・・会える?」

聞きたい事は色々あったはずだけど、そんなことより、会いたい。

私達に未来なんてなくても、余計に傷つく事になっても、会いたい。

『明日、引越しなんだ』

宮崎の口調には、だから忙しい、というニュアンスが含まれていた。

また沈黙があった。

だけど、じゃあいい、とは言わない。

これが私のわがままでも、今ひいたら、多分一生後悔する。

きっと二度と会えなくなる。

『・・・今からなら』

戸惑いがちな小さな声だった。

反射的に時計を見た。

6時を少し過ぎたあたり。

「いいよ、すぐ行く」


階段を走り降り、出しっぱなしのサンダルをつっかけて、暗くなり始めた道を公園へと急いだ。

これが宮崎と会うのは、最後になるだろう。

本当の終わりへと向かっていく悲しみと、これから会える嬉しさが、交じり合って藍色の空へ昇っていった。
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