宵闇


小さな、そして静かな息遣いが狭い車内の空気を重くする。

どちらも声を発することができずに、ただ時間だけが過ぎてゆく。


1分が、1時間にも、それ以上にも感じられた。


ふいに、彼がこちらを向いた。

まっすぐに見つめる視線を感じる。




彼が、あたしを呼んだ。


雨に濡れるフロントガラスから、ゆっくりと、彼に視線を移す。


まっすぐにあたしを見つめる瞳と視線が絡まる。


その彼の瞳が、揺れた。

思わず、視線を逸らしてしまった。



『今まで、俺は溺れ過ぎていたし、本当に身勝手で最低だった。キミが俺を好きでいてくれて、それが永遠に続くってそんな夢みたいなことを思っていたんだ。』

彼から、ぽつぽつと、言葉が紡がれる。


『でも、俺はキミを苦しめていたんだよね。俺の身勝手な思いで。』


『キミを守ることもできないのに、本当に勝手だった。でも、俺は……』


そこで言葉が途切れた。


彼を見上げる。




彼は、泣いていた。




< 24 / 29 >

この作品をシェア

pagetop