忘れたら…終。
ビックリして声が出ないアタシを
押しのけるかたちで、藍子が、


「失礼ですが、お宅の長女の、郁さんは、
 いらっしゃいますか?」


と、聞いた。

しかし、答えは……


「郁?知らないわよ?
 きっと、間違っているのよ。
 確かこの地区にそんな感じの名前の女の子が
 居たような気がするもの」


「そうですか…すみません。
 失礼しました……」


そう言うと、藍子はアタシの腕を引っ張って、
玄関から背を向ける。


そんな藍子に小声で、


「いいの!?帰っちゃっても!?」


と耳打ちする。
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