____苺の季節____
鳴海が手を離し、あたしと向かい合う。

4階の東階段、非常口。

屋上への出入口があるけど、いつも鍵が閉まっていて鉄格子が下ろされた静かな所。


「久しぶりだな…杏奈とこうやって話すの」

「うん」


少し照れ臭くてきちんと顔を見上げる事が出来ない。



「杏奈、紅林から何か言われた?」



いきなりの質問に、コクンと頷くしか出来なかった。


「そっか……、で?

杏奈は紅林の事が好きなの?」


「え、どうしてそうなるの?」


「何か良い雰囲気だったから」


「え、違っ、違うよ」


「違うって?」


「鳴海、あたしね…、あたし」


気持ちを伝えたかった。

「ん?何?」


鳴海が、あたしの手を取って指を絡める。


大きな手が熱くて、ドキドキした。


「俺さ、杏奈が話し掛けてくれるの、ホントは待ってたんだぜ?

俺の片想いばっか押し付けるの悪い気がしてよ」


そうだったの?

ひとつ疑問が晴れた。


「ごめんね?

どうして良いかわかんなかったんだ」


一言、好きと伝えるつもりだった。


「あたしね」

「何?」


寄り添うように、体を低くして耳をあたしに傾ける。



パタン…!


何かが落ちる音がした。


音のした方を振り返ると、あの子がいた。


百合ちゃん。


目に、沢山の涙を溜めている。


「ごめんなさい…、ふたりの姿が見えたから、つい、

ごめんなさい!」


落としたノートを拾って、泣きながら走り去った。


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