____苺の季節____
「鳴海!行って!早く……、

百合ちゃん、泣いてた…、

早く!」



「お、おう…、杏奈、わりぃ、ちょっと行ってくる……」


鳴海は、あたしの指を素早く解いて駆け出した。



見送る鳴海の背中が滲む。


こんな事言いたくなかったな。



でも、言っちゃった…よ。


どうしてだろ。

バカだ、あたし。


ホントはね、

「やだ、側にいて」ってすがり付きたい位だった。




鳴海と気持ちが通じ合ってたあの瞬間は、遠い昔みたい。



百合ちゃんの元に行かせたら、

百合ちゃんの涙が愛しくなって、

百合ちゃんの全てを守りたいと想うかもしれない。


今頃、百合ちゃんを抱き締めてるかもしれない。



そんな事ない……、鳴海はあたしだけを好きでいてくれる!そう、信じれば良いの?


そんな勇気も自信もある訳ないよ。


さっきまで絡めていた指。

近くで感じていた体温。

全て幻のように消えてしまった。


静かな空間に、取り残されて歯を食い縛る。


涙をこぼさないように、こぼさないように頑張っていた。


前に見た百合ちゃんの笑顔。

さっきの泣き顔。


鳴海の事、一生懸命に想ってるんだね?


そうね、あたしなんかより百合ちゃんの方が鳴海に似合ってる。


うん、お似合いだ。

お似合いだ、
お似合いだ。

自分を納得させたくて、何度も心で呟いた。


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